[ 3日目 ]
□■ 測定データ取り扱いの基礎 ■□
[質問]テキストP.239 2〜3行目「測定データの平均値への3σ1(差の標準偏差で2σ)」というところがわかりませんでした。初歩的なところで申し訳ありませんが、何故、“平均値の差3σ1=差の標準偏差2σ”なのですか?
[回答]テキストのこの部分は、2つの測定値が異なっていることが明確に分かるのはその測定値の差がノイズの大きさに対してどの程度になっている場合かを目で見て分かるようにすることにあります.
図15のAB間の平均値は〜0(ノイズの標準偏差は〜1)、BC間の平均値は〜1.5(ノイズの標準偏差は〜1)、CD間の平均値は約-1.5(ノイズの標準偏差は〜1)としてあります。
ABとBCの部分を比べると、多くの点が縦軸の同じ領域に入っており,ABとBCの領域のデータの差に意味があるかどうか判然としません?。このとき各領域に加えている信号は0と1.5としています。これはABとBCの領域のデータの差にはもとのデータの標準偏差σの√2倍(σ=σi√(1+1))(約1.5)の標準偏差を持つノイズが期待されるので、これに近い信号を加えて差が明瞭に分かるかどうか示したものです.
一方、BCとCDの部分を比べると、多くの点は縦軸の異なる領域にあり、明らかにそれぞれの領域のデータは期待値の異なった分布に属していることが分かります.BCとCDの領域のデータの平均値の差は約3σi(2σ=2σi√(1+1))としています。これだけの平均値の差があればBCとCDの領域のデータを選んできて比較するとき、BCの領域のデータがCDの領域のデータに等しいかそれより小さくなる確率は5%以下となります.
BCとCDの平均値の差を3σi(2σ=2σi√(1+1))としたのは、ノイズの標準偏差と比較すると分かりやすいと考えたからです.
[質問]XPSのデータはXPS装置のパソコンでピークフィット等が行えますが、他の装置で出たピークデータ(TXTや、CSVデータ)をオフラインのソフトでピークフィット(波形分離や半値幅、面積)を求められるソフトをご存知でしたら教えて頂きたいです。(XPSデータに限らず、XRDやRAMANのデータも)
[回答] 汎用のソフトでデータの解析を行うのはなかなか困難だと思います.XPS、XRD、Ramanなどの信号は、多くの場合、ガウス型関数またはローレンツ型関数でフィットすることができます.この様な場合、フィットさせるピークの数がせいぜい数個であれば、市販のグラフ作成ソフトが使えると思います.市販のグラフ作成ソフトではガウス型関数は用意されていると思いますが、ローレンツ型関数はユーザー指定関数として作らなければならないかもしれません.
これらは非線形のフィッティングになるので、多くのピークをフィットするようであれば専用のソフトを使うのが良いかと思います.
[質問]測定データの取り扱いについて、XPSのケミカルシフトなどを考える時ガウス関数などを用いてデコンボリューションを行いますが、その時のピークの数や半値幅等が正しいかどうかを確認するにはどうすれば良いでしょうか?(特にショルダーらしきものが見えた時それをピークとするか無視するかで見えてくる情報量が変わるのですが、実際本当に正しいのかどうか悩みますので)
[回答] デコンボリューションを行う場合,カーネル(装置関数)が知られていてノイズが小さい場合には、ほぼ正しいと考えられます.しかしカーネル(装置関数)誤っていたりノイズが大きい場合には、全く異なってきてしまうことがあります.
データへの曲線のフィッティングはパラメーターが多くなると適合してしまいます.パラメーターの数を最小限にしてフィッティングできることがベストだと思います.データだけでなく組成、純スペクトルなど参考になることがあれば活用することが必要です.
通常データを平滑化した後に解析にはいりますが、ノイズの多いデータでは、平滑化の点数が少ないとショルダー様の構造が出てくることがあります.また極端に外れたデータがあるときにも同様です.これらの場合、もとのデータを参照して、
1. 極端に外れた少数のデータが原因であれば要注意。
2. ショルダーの成分がノイズの標準偏差に比べてどの程度になっているかを検討し,ノイズと同程度なら要注意。
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□■ オージェ電子分光法(AES) ■□
[質問]1 異物分析を行う場合、EDX、AES、FT-IRなどがありますが、それぞれのメリット・デメリットについて教えて下さい。
[回答]FT-IRは赤外線を励起光として用いています。従って、最も測定時の試料損傷が少ないと考えられます。しかしながら、空間分解能の限界が光の波長で決まってしまうため顕微FT-IRでも1μm程度よりも小さな異物は観察すること自体が難しくなります。
SEM-EDXはプローブとして電子を用い、発生したX線を検出しています。プローブを絞り込むために高いエネルギーの電子を用いると、固体内で散乱しながらX線を発生させる分まで検出してしまうために、空間分解能が数μm迄に制約されてしまうと考えられてきました。後の質問にも出て来ますが、この点は低エネルギーの電子で励起して、励起体積を小さくすることで改善が図られています。現在、サブミクロン程度が達成されています。
AESは元々発生体積が小さいため、微量のことを言えばSEM-EDXと同じように散乱電子による励起は気になります。しかし、幸いなことに、最大の励起は入射ビームによって直接に行われるものです。そこで、サブミクロン以下の異物に対しても検出・同定の能力を持っています。
SEM-EDXとAESに共通の短所は、電子を励起に用いその時にできる励起ホールが関係して出てくる信号を検出しているため、化学状態を維持したまま検出するためには、励起に用いる電子の照射量について制約がある点です。
[質問]2 アコースティックにして振動etc.の影響を防いでいましたが、磁場の影響は考えなくていいのですか?
[回答]磁場が悪影響を及ぼすことは古くから知られており、そのための対策は色々と講じられてきました。代表的な方法は、
a) チェンバー全体にミューメタルシールドを施し、外部からの磁場を遮る。
b) 内部にある磁気コイルからの磁場が分析系にはできるだけ漏れないようにポールピースを設計する。
c) ヘルムホルツコイル(局所的な場合にはトリムコイルとよばれることもある)を用いて試料周りの残留磁場に対する逆磁場をかける。
といったものです。これらは直流磁場への対策ですが、周辺で大電流を使うために磁場が形成されたり突然に切れるようなことが起こる交流磁場は、直流磁場の場合の様な対策が有効ではありません。そこで、あらかじめその影響が少ない場所に設置するという注意が払われます。
[質問]3 試料に帯電が起こると感じたのですが、前処理は必要ないですか?
[回答]試料によって異なります。表面に変化を与えずに導電性を付与するような前処理が可能ならば良いのですが、・・・。化学的な変化を与えるのでは、表面分析としては一寸ということになります。試料を極薄片として作成し、励起電子は完全に通過してしまうようにするような工夫はあります。試料の厚さは0.1〜0.5 nm程度に作成することになるかと思いますが、AESで「表面に変化を与えないように作成する」ことはなかなか難しいと思います。AESもそうですが、表面分析では「試料をあるがままに測定にかける」ことが基本です。
一方で、帯電の原因が表面に付着したゴミのようなものである場合は少なくありません。その様な場合には、「ガスを吹き付ける」などしてゴミを取り去ることは有効です。
有機物系の試料(絶縁物)に対しては、ビームの照射される中心部は損傷が大きいため炭素しか検出されなくなりますが、周辺部からは信号が出ていることもあります。この場合には、ビームで損傷を与えて炭素にした部分を伝導パスとして利用し、絶縁物である周辺の信号を取り込んで解析する方法も報告されたことがあります。
[質問]4 AESは粉末試料の表面分析も可能なのでしょうか?
[回答]粉末のサイズ・固定の方法によって変わります。試料固定の方法は試料に応じた色々な工夫が可能なため、一概に可能/不可能を断じることはできません。導電性の粘着剤に粉末を固定することができれば、可能なことが多いとは言えます。また、二次電子放出率が丁度1と成るようなビーム条件(励起電子のエネルギー、電流密度、入射角)を設定できれば、粉末の一粒を測定できることもあるでしょう。
絶縁物粒子である場合、帯電によって粒子同士が弾き合い、試料粉末が飛散してしまうこともありますので、取扱には注意が必要と思います。
[質問]5 軽元素と重元素が混じっているような試料の表面分析も可能なのでしょうか?
[回答]可能です。
この様な場合、重元素は入射後の散乱電子を多く発生します。反対に軽元素は重元素に比べると散乱電子の発生量は多くありません、そのため、実際の濃度よりも重元素濃度が低く、反対に軽元素濃度は高く観察されます。存在濃度をできるだけ正確に算出したい場合には、この様な現象に対する補正計算を行う必要が出てきます。
[質問]6 オージェ:有機材料、生体材料への応用は何かありますか?
[回答]生体親和性の評価という分野は、表面分析の生体材料への応用として有効性が示されています。例えば、狭心症の治療にステンレス製の細い管(ステント)を用いますが、血液がステントに触れた時に凝固してしまうと大変なことになります。そこで、数多くの方法で検査・評価が行われるわけですが、そうした手法の一つとして電子分光分析による表面評価が使われたと伺ったことがあります。その目的は、血球が付着する性質は、材料表面の数原子層が支配的なため、表面分析手法が丁度適当な情報深さを持っていたからということでした。
[質問]7 「2次電子」とは何なのでしょう。どこから発生してくるのですか。
[回答]励起を行う粒子(光子・電子・イオン・原子や分子の高速ビームなど)を一次線と言います。広義にはこの励起によって発生する電子を全てまとめて二次電子と言います。二次電子が発生すると、そのまま真空中に飛び出すこともありますが、二次電子自身もエネルギーを失いながら散乱し、新たな二次電子を発生することもあります。散乱過程でエネルギーを受け取って試料から飛び出してくるエネルギーの低い電子を特に真の二次電子と呼ぶこともあります。
固体内で電子が散乱する様子を図示すると、ネギ坊主のような絵ができます。そのネギ坊主の全体から二次電子は発生しています。その中で、表面を通り抜け真空中に出てきたものだけが観察対象になっています。
[質問]8 XPSの相場(大体の価格)と測定にかかる時間がどの程度なのか教えて下さい。また、今回の講座で説明があった装置の中で手軽に測定ができる装置はどれですか?AESは今後もっとコンパクトで低価格になりませんか?
[回答](1) 価格:簡便な装置の価格は比較的低く数千万円程度ということもあるようですが、大型の装置では数億円に達することもあります。
(2) 測定時間:1 mm径以上の領域で測定しているのであれば、主成分の存在と多寡だけを観察するのであれば2分程度、存在量についても主成分の概略を調べる程度であれば10分程度で可能です。
しかし、やっと肉眼で見える程度の大きさの物(20μm径程度)に対して化学状態を含め精確な測定を求めると装置によって大幅な差があります。高速な装置でも、30 分程度かそれ以上の時間を使うことが多いと思います。
要求内容によっても大幅に異なります。
(3) FT-IR, SEM-EDX, AESを比較する時、FT-IRは大気中で試料を扱えるという容易さがありますが、分析範囲が小さくなると途端に困難の度合いが増します。SEM-EDXは、超高真空を必要としないことが多いですが、100 nm以下という大きさに対して急に難しくなります。測定対象が表面や界面に限られている試料では、AESは試料を超高真空に置かねばならなくとも測定できるという点が特徴的でした。超高真空中への試料導入が容易になってきた点は、技術的な差異よりも装置価格や操作に対する慣れといった要素が手軽さを決めるようになってきていると感じています。
(4) AESのコンパクト・低価格化:より小さな分析対象を観察しようとすれば、電子銃のある程度の大型化は避けられません。これは、SEMに比べて電子銃・試料チェンバーの両方に「質の良い」超高真空が要求されるためです。電子分光の方法や要求するビーム径との妥協の仕方によっては、小型の装置が出現する可能性はあると思います。この辺のバランスの取り方ということになりますので、技術的というよりも経済との妥協という色合いの方が強くなりそうです。
[質問]9 加速電圧が高いが故、EDSやEPMAでは、高空間分解能の分析が不可能とのことでしたが、加速電圧を5kv以下に下げればMonte Carloの結果からサブミクロン程度の異物分析が可能であると思いますが、いかがでしょうか?(当然、高エネルギーのK線ではなく、低エネルギーのL線、M線を使った]線の元素分析をすることが不可欠でありますが)(EDSのmappingでも数十、数百ナノメートルオーダーの空間分解能を持つ結果が出はじめていると思います。)
[回答]ご質問の通りです。そのためには幾つかの点で妥協せざるを得ない点があることは注意すべき点でしょう。たとえば、電解放射型の電子銃を使えば、その周囲は超高真空を保つ必要があり、必然的に試料室の圧力も従来型の物よりは1桁程度は下がらざるを得ません。エネルギーの低いX線は表面汚染の影響を受けやすくなる点も試料チェンバーの圧力を下げる方向に影響を及ぼします。
極端に走ればAESの方向に装置の性格が近づいてしまい、表面汚染に敏感になってしまいます。そうなると、EPMAの手軽さとして考えられていた特徴が失われてしまうため、どこを妥協点として選択するかという点が、手法・装置を選択する上での要点になると考えます。
[質問]10 AESは電流値を大きくとる必要があるため、出来の悪い(収差のある)電子も使わざるを得ないとのことですが、大電流流して得られる2次電子像も50万倍まで上げられるのですか?例えば観察時のみ小電流で行って分析時にあげるという使い方はしないのですか?
[回答]これは、仰るとおりで、ご質問の後半で述べられている使い方は実際的な基本です。とはいえ、電流を変える際に若干は画像位置が変わりますから、その分を補正しながら電流を決めるので、絵が分からなくなるほどに電流を流すわけにはいきません。最近の電解放射型電子銃を利用した装置の場合、1 nA程度の電流で画像を観察することが多いのですが、その同じ電流でスペクトルも採ってしまう場合が多くなっているようです。
[質問]11 (WDなど)電子銃の構造上(2次電子像の空間分解能はどれぐらいですか?)、通常のSEMにはたちうちできないのでしょうか?(50万倍というのは、その辺のSEMよりよっぽど優れていると思いますが)
[回答]二次電子像の空間分解能は、オージェ電子分光装置の場合には「6 nm程度のビーム径が達成されていると思います。像の分解能は、5 nmを切るかもしれません。」という程度です。通常のSEMと比較する場合には、投入電流が随分と変わりますし、レンズの周囲にある分光器も若干の邪魔をします。特に、振動を拾いやすくなる点は、ハンディキャップと申し上げて良いでしょう。
SEMの場合には作動距離(Working distance)を思い切り小さくすることができますから、in lens SEMと呼ばれる装置では像分解能が1 nm以下という小さな値である装置が珍しくはありません。こちらは太刀打ちできないと言えますが、in lensでないタイプのSEMには投入する電流の違いによるビーム径差程度の範囲に収まるようになっていると思います。タングステン・ヘアピンタイプのフィラメントを使ったSEMと比較するならば、電解放射型のオージェ電子分光装置は十分に高い空間分解能と画像のコントラストが得られると思います。
[質問]12 50nmの分解能をもつ異物分析が可能とのことですが、これらの性能を発揮する応用分野を教えて下さい。
[回答]半導体表面に存在するゴミはデバイスを作成する上での大敵ですが、配線の最小幅が現在のように小さくなると、ゴミを調べてゴミの原因を追及するのは一つの応用分野です。また、金属材料の開発などでは、極めて小さな析出物を意図的に作り出したり、それを防いだりします。この様な場合の析出物の分析も重要な役割と言えるでしょう。
その他、デバイスを断面観察したりもしています。
[質問]13 EPMAも長時間の測定や恒温化を必要とするためステージの精度・電流安定度は高いものでなくてはならないと思いますが、AESの方がもっとシビアと考えてよろしいのでしょうか?
[回答]仰るとおりです。時間的な物は、AESの方がより小さな分析径を利用することが多いためと、X線の様にバックグラウンドが低くはないためという2つの基本的な理由のために、より小さな信号を長時間積算する必要があるためです。
機械的にも、高真空程度で使うことが許されるEPMAの場合にはスライディングシールを使い回転を伝達するためのシャフトを真空中から大気側に通すことが許されますが、AESの場合には超高真空での仕様が前提ですから、スライディングシールが極めて使いにくいのです。そこで、例えばベローを使って真空封止した揺りてこ型の回転伝達系を利用します。そのため、一般にはバックラッシュなどの伝達誤差が生じやすくなっています。
15年ほど前に超高真空中で回転を作り出せるモーターが開発されましたが、音響遮蔽を施してあるような装置では試料移動にはその様な機構を使い、伝達誤差を直結する方法と同程度にしています。
試料周りの空間を大きく取る必要があるために電子銃の作動距離が大きくなるという意味でも振動の影響は大きくなりますから、音響遮蔽は殊に空間分解能を高くして観察する必要性の高いAESで必須の技術になってきていると考えます。
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□■ X線光電子分光法(XPS) ■□ [質問]有機膜をスパッタリングする際に、スパッタレートを早くするための良い方法があれば教えてください。
[回答]スパッタ収率はスパッタイオンビームの入射角度に依存し、一般的には斜入射にするとスパッタレートを早くすることができます。目的の材料で入射角度依存性を調べてみるのも一つの方法でしょう。
[質問]スパッタリングによる深さ方向の状態分析を行う際のスパッタダメージについて教えてください。また、そのダメージを軽減する方法はあるのでしょうか。
[回答]スパッタリングは表面を破壊しながら分析しているのでダメージフリーにすることはできません。化学状態も程度の大小はありますが、スパッタリングによって変化していると考えるべきでしょう。このスパッタダメージを軽減する方法には、低加速イオンビームの使用やC60などのクラスターイオンビームの使用が有効な場合があると言われています。
[質問]化学修飾法を行う場合の注意点は何かありますか?
[回答]未反応や反応の内部への進行を抑制するための適切な反応時間の設定、反応によって誘導体化した試料の分解を低減するための反応から測定までの時間短縮などが一般的な注意事項として考えられます。
[質問]XPSのバックグラウンドの形状から深さに対する情報が得られるという話がありましたが、どのような情報が得られるのですか?
[回答]光電子ピークの存在に伴う低運動エネルギー側のバックグラウンドの上昇を解析することによって、注目する元素が表面近傍に偏在するのか、深い部位に偏在するのか、あるいは表面から深さ方向に均一に存在するのかについての情報を得ることができます。代表的な文献を以下に記しておきますので、ご参照下さい。
S.Tougaard: Surf. Scie., 162, 875 (1985)、S.Tougaard: Surf. Interface Anal., 8, 257 (1986)、H.S.Hansen, S.Tougaard: Surf. Interface Anal., 17, 593 (1991)
[質問]ケミカルシフトから化学状態を同定する方法を教えてください。また、X線励起オージェピークのケミカルシフトはどこで調べればよいのですか?
[回答]装置メーカーのハンドブックなどに代表的な物質のケミカルシフト(含むオージェピーク)の一覧表が示されていますが、やはり化学状態の考察を行う際には標準試料を測定することをお勧めします。
[質問]現在UPSを用いた価電子状態の分析を行っているのですが、cut offエネルギーを測定するのにかけるbiasによってcut offエネルギーの位置が若干変化するという傾向が見られます。実際正確なcut offエネルギーを測るにはどの程度のbiasをかければいいのでしょうか。また、UPSについての何か良い参考書などありましたら教えてもらえないでしょうか?
[回答]UPSについてはよく分かりませんが、一般的には起こらない現象という話を聞きました。チャージアップの影響はないのでしょうか。参考書については、英文ですが纏まったものがあると聞いています。文献からの調査、あるいはインターネット検索で調べてみてはいかがでしょうか。
[質問]XPS角度分解法で深さ方向分析を行う際の注意点を教えてください。
[回答]まずは表面粗さの影響は充分に考慮する必要があるでしょう。また、θが大きい場合には弾性散乱効果や表面プラズモン励起効果が大きくなる点も注意が必要でしょう。詳細はテキストに参考文献を示しておきましたのでご参照下さい。
[質問]XPS:絶縁物のエネルギー基準決定について教えて下さい。
[回答]絶縁性試料を測定する場合のエネルギー補正は確立された方法がないのが現状で、今後も取り組んでいかなければいけない重要な課題でしょう。一般論としては、チャージアップをできるだけ抑制した条件で測定し、制御された表面吸着有機物質のC1sを基準にするのが現状のベターな方法だと思います。
[質問]XPSでイオンスパッタリングによる酸化物の深さ方向分析を行う場合の還元の影響について教えて下さい。また、選択スパッタリングの影響についての材料ごとの一般的知見は知られているのでしょうか。
[回答]イオンスパッタリングによって、例えばSiO2は還元されにくいが、Ta2O5は還元されやすいということは経験的に良く知られていることです。これは選択スパッタの影響であり、その程度はスパッタリング収率の差に依存すると考えられます。ただ、これらの還元を含めた選択スパッタリングの程度が体系的に纏まっているかどうかはよく分かりません。
[質問]XPSの仕事関数は、何故、装置の仕事関数になるのですか?また、その装置の仕事関数の大きさは何で決まるのでしょうか。
[回答]XPSではフェルミ準位を基準に考えるのが一般的です。そして、金属などの導電性試料では、試料と分光器のフェルミ準位を一致させているため、試料の仕事関数の項が相殺されます。詳細はテキストに記載してありますので、ご参照下さい。
[質問]単結晶を用いてオージェ電子分光を行った時、光電子の回折によりピークが生じることがあるのでしょうか?
[回答]光電子回折やオージェ電子回折によって起こる現象としては、光電子強度の放出角度依存性があります。したがって、結晶面と検出器の位置関係(角度)によって光電子強度が変化することになります。ちなみに、この光電子強度の放出角度依存性の解析によって表面構造に関する情報を得ることもできます。
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□■ 二次イオン質量分析法(ダイナミックSIMS) ■□
[質問]D-SIMSについて:有機膜や金属膜などが多層膜になっている試料について、深さの確度を上げるなどの正確な情報を得るためにはどのようにすれば良いでしょうか?
[回答]有機膜が多層膜になっている場合は,試料帯電の補正が最も重要です。帯電補正法としては電子照射法が一般的ですが,電子照射による熱的ダメージで深さの精度がより一層悪化することも考えられます。試料に合わせた帯電補正を行いながら深さ方向分析を行う必要があります。また,金属膜が多層膜になっている場合には,一次イオン照射によって引き起こされる表面荒れが深さ精度低下の主要因になります。表面荒れは,一般に一次イオンの入射角度に大きく影響されますが,金属膜の場合,どのような入射角度でも起こりやすいため,試料を回転させながら深さ方向分析を行うことが表面荒れ抑制に効果的です。有機膜と金属膜の多層膜の場合は複雑で,上記の帯電補正と表面荒れ抑制の手段を講じながら深さ方向分析を行う必要がある上,有機膜と金属膜とではスパッタ収率が著しく異なることも考慮しなければいけません。スパッタ収率も一次イオンの入射角度に大きく影響されるため,できるだけ双方の膜でスパッタ収率に差が小さい入射角度を選択する必要があります。深さ精度を高めるためには,スパッタ収率の差が小さい入射角度で一次イオンを照射し,帯電補正と試料回転を行ないながら深さ方向分析を行わなければなりません。
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□■ 二次イオン質量分析法(スタティックSIMS) ■□
[質問]表面分析を行う場合、試料表面を汚さない事に気をつける必要がありますが、実際、分析する試料の多くは現場からハンドリングしてきてもらう必要があります。分析面に接触しない事はもちろんですが、できるだけ表面の汚染を避けるためにはどのようにすれば良いでしょうか?(具体的にどのような素材のケースを用いると何系の汚染を避けられるなどのノウハウがあれば教えて頂けないでしょうか。)
[回答]試料の保管や輸送に関してはいつもよく聞かれますが、どこまでの清浄度を評価対象とするかによって、試料の扱い方が異なると思います。例えばSiウェハとなりますとデバイス製造が目的ですから、クリーンルームの環境と同じ水準の清浄度評価が求められます。現在も多様なプラスチック製容器が使用されていますが、その添加剤が揮発しウェハに吸着してTOF-SIMSで検出されることもあります。以前調べたことがありますが、同じ処理をしたウェハをプラスチック製の容器とガラス製の容器で輸送した場合、ガラス製で輸送したウェハの方が表面から検出された有機成分は少なかったです。試料の形状や大きさにも依りますが、清浄なガラス製容器が使用できるのであればお勧めします。ただし、ガラスは割れ物ですし、いろんな意味で扱いが不便です。もう一つ重要なのは、容器だけでなく試料の固定方法です。折角きれいな容器を使用しても、粘着テープなどで試料を固定すると、シリコーン(ポリジメチルシロキサン)が試料表面から大量に検出されることになり意味がありません。ピンセットもきれいにしておく必要があります。試料がフィルム状の場合、同じフィルムを何枚も重ねて固定することがあります。中央部を切り出し、分析前に初めて上下のフィルムを取り除くといったやり方ですが、表と裏で性状が異なる場合、相互の転写が問題になることがありますので、分析の目的によっては考える必要があります。同じ考え方ですが、比較的大きくて平たい試料の場合(ただし、試料は2個必要)、分析面どうしを密着させて外部からの汚染を防ぐのは良いかも知れません。いろいろ申しましたが、実は、検出されたものがオリジナルの試料に由来するものか、二次的な汚染によるのかを区別するのが重要であり、また困難な場合があります。これを容易に行なうためにも、適切な参照試料を準備されることをお勧めします。
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